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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)776号 判決 1960年6月17日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人海野普吉、同長野国助、同坂本泰良、同新井章連名の上告理由第一点乃至第六点について。

地方公共団体の長は、地方住民の選挙によつて選任され、当該地方公共団体の執行機関として、本来国の機関に対しては自主独立した地位を有するものではあるが、他面、法律に基き委任された国の事務を処理する関係においては、国の機関としての地位をも有するものである。したがつて右後者の地位における事務処理については、国の指揮監督権に服すベきものである(国家行政組織法一五条、地方自治法一五〇条)。

しかしながら、国の委任を受けてその事務を処理する関係における地方公共団体の長に対する指揮監督につき、いわゆる上命下服の関係にある、国の本来の行政機構の内部における指揮監督の方法と同様の方法を採用することは、その本来の地位の自主独立性を害し、ひいて、地方自治の本旨に戻る結果となるおそれがある。そこで、地方公共団体の長本来の地位の自主独立性の尊重と、国の委任事務を処理する地位に対する国の指揮監督権の実効性の確保との間に調和を計る必要があり、地方自治法一四六条は、右の調和を計るためいわゆる職務執行命令等訴訟の制度を採用したものと解すべきである。そして同条が裁判所を関与せしめその裁判を必要としたのは、地方公共団体の長に対する国の当該指揮命令の適法であるか否かを裁判所に判断させ、裁判所が当該指揮命令の適法性を是認する場合、はじめて代執行権及び罷免権を行使できるものとすることによつて国の指揮監督権の実効性を確保することが、前示の調和を期し得るの所以であるとした趣旨と解すベきである。この趣旨から考えると、職務執行命令訴訟において、裁判所が国の当該指揮命令の内容の適否を実質的に審査することは当然であつて、したがつてこの点、形式的審査で足りるとした原審の判断は正当でない。

そして、裁判所が実質的に審査するについては、司法審査固有の審判権の限界を守ることはいうまでもないところであり、且つ行政の適正敏速な処理を妨げることのないよう配慮した同条及び職務執行命令等訴訟規則の趣旨に則り特に速やかなる裁判を為すべきことは当然ではあるが、いやしくも、裁判所の審査権の限界内にあると認められる限りにおいては、裁判所はこれが実質的な審査を回避しもしくは拒否し得べきものではない。上告論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、本件は司法審査の及ぶ限度において本件都知事の命令の適否を審査するにつき、なお事実の審理をする必要があることが明らかである。

よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項にしたがい、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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